2002年度第4号(1)

やっと出来あがった都岳連山岳遭難共済制度
(都岳連独自運営の山岳保険)

副会長 松元邦夫

 今から8年いや9年前になろうか。日山協の常務理事会で突然、「松元さん、都岳連で独自に山岳保険を作って募集をしているんじゃありませんか?日山協の保険があるのだから止めさせて下さいよ」「言っている意味がわかりません」「とぼけないで下さいよ。このようなパンフレットがあるじゃないですか」。一読してビックリ。私が知らないところで、遭対・救助隊が中心になって、都岳連独自の山岳保険を開発して募集をはじめていた。

呼称を都岳連共済といい、事故があった場合、登山者同士が助け合う、登山者のための本当の保険というふれ込みであった。内容を一つ一つ確認すると、確かに優れているが、現実と理想が織り交ざり、むしろ絵に描いた餅に近かった。内容を満足させるためには、保険会杜に頼らない独自運営しか方法がない。本気で独自運営をするには、千万円単位の資金を要するが、都岳連にその余力はない。

 一般に山岳保険は、「傷害保険」であるため、支払いの対象は、滑落・転落・落石などのように、急激・外来・偶然を満たした事故に限られる。凍傷や疾病は、原則的に給付の対象にならない。都岳連共済は、怪我・疾病・捜索・救助・海外の事故・救助隊の出動及び死亡見舞金等、山で起きる全てをまかなおうという主旨である。

とりあえず独自運営が出来るまで、損保会社に頼らざるを得ない。低料金しかも各種サービスを出来るだけ多く盛り込む保険を作るため、遭対・救助隊の保険担当は、連日連夜保険会社と交渉をした。保険会社の連中は、「とんでもない保険を受けてしまい、理論武装をしたとんでもない奴らにひっかかったもんだ」とこぼしながらも、結構無理を聞いてくれた。しかし凍傷や疾病には適用されず、本来の共済制度にはまだまだ及ばない。が、とりあえず良しとせざるを得なかった。事故があった場合、遭対・救助隊の連中が、親身になって相談に乗ってくれた。 お恥ずかしい話であるが、都岳連共済の第1号の死亡給付は我が会であった。

当時の遭対担当副会長の森谷氏(現会長)・遭対委員長橋本氏・元救助隊隊長の川原氏等が親身になって指導助言をしてくれた。本当に助かった。この精神は現遭対委員長の渡辺氏・共済担当の相澤氏に脈々と引き継がれている。

 昨今中高年の登山者が急増し、事故が多発している。その内容は、転落・滑落以外に疾病の率が上昇している。脳溢血・心臓病で倒れてヘリコブターを頼んだ場合、今の山岳保険では給付されない。

それを給付するには、やはり独自運営しかない。そこで、渡辺遭対委員長・相澤共済担当理事を中心に独自運営について研究を始めた。保険のプロの森谷会長・顧問弁護士武田先生の法律的見地からのアドバイス、保険代理店の小日向氏、各理事からの質問・要望、そして言葉の一字一句まで検討し、今まで8年問、共済に関する還付金・事務手数料等を貯めてきた資金を準備金として、独自運営の可能性が出てきた。そして理事会で独自運営が承認された。4月1日から待ちに待った独自運営の都岳連山岳遭難共済制度が出発した。

この制度の大きな特徴は、3点に要約できる。
①救助費用が疾病にも適用される。例えば、心臓病や高山病で救助されても、低体温症による疲労凍死でもヘリコブター代は給付される。
②事故が少なくその年の共済の掛け金が余った場合、加入者に還付する。
③死亡見舞金が出る。
特約で海外もカバーされる。詳細は共済のしおりを見た方が早い(事務局に請求)。

森谷会長も私も都岳連共済に9年問も携わってきた。森谷会長は常に表舞台で活躍し、私は裏舞台の裏で「まだしがみついているの」と言われながらぶら下がってきた。今年度から都岳連遭難共済管理委員会が発足し、優秀な人材が登用された。
この辺で森谷会長も私も彼らに道を譲り、登山者のための、すばらしい都岳連遭難共済制度に育ててもらいたいと熱望している。