2010年度第1号

ハセツネCUPの目指すもの

副会長 宮地 由文

 (社)東京都山岳連盟の行っています日本山岳耐久レース(24時間以内)~長谷川恒男CUP大会は、当初国民体育大会の縦走競技の選手育成が大きな目標としてありました。しかし国体山岳競技から縦走競技が無くなりインドアのクライミング競技だけとなりましたが、皮肉にも現実は、自然のすばらしさを肌で感じるトレイルランニングブームが巻き起こりました。
「トレイルランニング」という言葉が市民権を得て一人歩きを始めています。国内には数え切れないトレランレースが存在するにいたりました。
一方、山を走ることは自然保護に反するといった偏った発言も多く見られる様になりました。新しい山のジャンルに対するアレルギーが自然保護の錦の御旗を掲げて台頭しています。自然保護の基調は自然と人間の共生です。しかし、自然との共生には多くの障害もあります。そのギャップをどう埋めるかが自然保護活動です。山に人間が入るのを調整する事のみが自然保護だとすれは山岳連盟の存在意義は無くなります。その偉大なる自然の大きさと尊厳をじかに安全に接する機会を提供するのが全国の山岳連盟(協会)の任務だと思います。
今春行われましたハセツネ30K大会の1週間後には650名を越える選手がハセツネグリーンフェスティバルに集まり、清掃山行、竹林の間伐、植林、河川敷の清掃を行い大会前より美しい自然に戻そうと里山に山岳コースにと清掃に励み、若いトレイルランナーの自然保護の高まりを感じました。
私達は健康志向のアウトドア志向ブームと東京マラソンに象徴される応募者36万人に及ぶ市民マラソンブームの頂点としてトレイルランニングが位置づけられると考えています。
ハセツネCUPや春のハセツネ30Kは2時間もたたずに2000名の応募者で埋まり、後はなぜ参加できないかといった抗議と嘆願の電話が鳴り続けます。
そうした中でレース中の事故やトレーニング中には遭難も起きています。又、トレイルランナー自身が安全走行の為にセルフレスキューをマスターするための自己研鑽に励まなければならないと同時に山岳連盟の山における永年の安全登山教育の蓄積をトレイルランナーに帰して行く事業も充実させねばならないと考えています。
私達は安全走行講習会を年6回行いセルフレスキューをマスターするための講習会を3年に亘って行ってきました。セルフレスキューをマスターした選手は大会当日、選手マーシャルとしてエントリーし71.5㎞のコース全般に応急体制の情報網を確保しています。また、ここに組織した人員を都岳連の加盟団体として登録している「東京ハセツネクラブ」に加盟させ、さらに山のエキスパートとしてクライミングや冬山の訓練に励み山岳技術の研鑽に励んでいます。現在は都岳連会長を名誉会長に100名を越す会員を有しています。
公認スポーツ指導員の資格を有した会員を軸に安全走行講習会、フィ-ルドマーシャル育成講習会やレスキューマーシャル講習会を公募し年間を通じた活動を広げています。また、大会のスタッフもこれらの専門チームを中心に構成されるにいたりました。
トレイルランニングの人気に伴いトレイルランニング愛好家が一人で山に入りトレーニング中に遭難するといった件が出始めています。このことが社会問題化しないうちに山に入る場合は山岳遭難保険に加入するといった山の常識(義務)を啓発する意味から選手エントリーに山岳遭難保険の加入義務化を初めて行いました。又、2009年4月に行いましたハセツネ30Kはポイント制を導入しました。その理由としてトレイルランニングの未経験者が安直にハセツネCUPにエントリーするのを防ぐ為、入門レースとしてハセツネ30Kを経験してからエントリーしてほしいということが第一にありました。
このことはトレラン界にトレイルランニングに山岳保険はいかなるものかという論議が巻き起こり、事務局の対応は極にいたりました。1年間の努力でとりあえずの沈静化にむかい、さらに山岳保険加入解釈普及には時間が必要だと痛感しています。
ブームにのった日本のトレイルランニングの大会は野ばなし状態です。トレイルランニングをトレイルランナー自身の手により確立するため、日本における山岳競技の唯一の公益団体(社)日本山岳協会にレイルランニング専門の小委員会が設立されました。日本のトレイルランニング大会を指導し選手管理を実質的に運営して行くため、一刻も早く日本におけるトレイルランニングの表看板に正規のトレイルランニング委員会が表舞台に出なければなりません。
トレイルランニングの定義、トレラン用語の統一、トレイルランニング大会の基準作り、陸連競技規則の山岳競技との棲み分け、シングルトラックの整備のランク付け、エントリー人数、選手の管理、トレラン大会公認審判員の創出、トレラン選手育成と強化普及と公認指導者・競技力向上指導員の養成のカリキュラムの作成とこれらの指導員の育成及び資格認定業務及び研究、日本選手権の為の選手の登録制の条件整備など問題は山積みです。
山岳スポーツの位置づけはほかならぬ社団法人東京都山岳連盟の位置づけでもあります。文部科学省→財団法人日本体育協会→(社)日本山岳協会→社団法人東京都山岳連盟というスポーツ行政の位置づけをしっかり見据えた上で東京国体に向けた体制作りも着手せねばなりません。
国体競技のリード・ボルダリング競技、アイスクライミング、山岳スキー、トレイルランニング、という山岳競技スポーツを認知し、これの普及振興事業を行うのは日本においては日山協であり東京においては都岳連であります。
これらのの競技会(ハセツネCUP等)を競技主管として都岳連の専門機関(クライミング委員会・日本山岳耐久レース委員会)が実質的にかかわり、この競技会を行うにあたり選手の管理、公認審判員、公認指導者・競技力向上指導員の養成とカリキュラムの作成及び資格認定業務及び研究を行うことが競技主管としての主な任務と理解しなくてはなりません。
競技主管とは別に競技会を運営するにあたっては大会実行委員会が主催し、日本山岳競技センター財団(仮称)が事業運営実務を担当するのが今後の方向として位置づけなくてはなりません。これらの方向は東京マラソンが競技主管が日本陸連が行い大会運営は東京マラソン財団がおこなうものと一致しています。
大会実行委員会は(社)日本山岳協会、(社)東京都山岳連盟、スポンサー、各種行政機関、地域・各種協力団体で組織し、運営主管が日本山岳競技センター財団(仮称)が行い、競技主管は競技に精通した都岳連のアスリート集団が担っていかなければならないと考えます。
明日の都岳連の為、世代交代の潮流を作り、そのために若い人達の組織化をさらにすすめ若く優秀な人材の登用を進める為、永年東京都山岳連盟を築いて来た諸先輩の経験に学びつつハセツネ実行委員会とともに都岳連の若返りを一層進めて行きたいと思います。