猪熊氏と行く初冬の観天望気講習会報告

2018年11月17日(土)、山岳気象予報士猪熊氏と行く初冬の観天望気講習会が富士五湖の一つ本栖湖の南側にある竜ヶ岳のハイキングルートで開催されました。本栖湖畔の登山口から一時間ほど登ると、稜線上に出て、日当たりの良い南面には、富士山の姿がキャンバスいっぱいに描かれた絵のように現れます。各所のビューポイントに立ち止まっては、講師の観天望気のお話をうかがい、質問をすることができる贅沢なハイキングでした。以下に猪熊講師のお話の要点を交えながら、観天望気山行の状況をまとめました。

この日の朝、北日本を寒冷前線が通過して、日中は次第に大陸からの高気圧に覆われていきました。こうした中、前線通過後には、北日本を中心とした等圧線の縦縞模様が出現し、西高東低の気圧配置となり、本州付近には北寄りの風が吹きましたが富士山付近は等圧線の間隔が広く、風は穏やかでした。

日本海側の低層には海からの湿った空気が流れ込む一方、上層には寒気が入らなかったため、雲は成長せず、高度も比較的低いままでした。こうした中、関東甲信越では日本海側の一部を除き晴天となりました。 このような気象条件下で富士山麓の竜ヶ岳付近は快晴となりました。観測する雲が少ないという、観天望気の講習会としては、なかなか厳しい滑り出しです。下の写真には富士山の右側、駿河湾に面した南側が写っていますが、竜ヶ岳▲から富士山の方を見ています。快晴の中、ようやく雲らしい雲が出てきてくれました。これは積雲で、綿雲とも言います。

講師の解説の要点です。富士山の南にある駿河湾上では、海から蒸発した水蒸気のため、空気は湿っています。天気が良くて風の弱い日は、陽が高くなると海から陸に向かって海風(うみかぜ、オレンジ色の矢印)が吹きます。この風によって駿河湾の湿った空気が富士山麓に運ばれ、太陽からの日射によって富士山の南斜面のすぐ上にある空気も温まっていきます。温まった空気は軽くなるので上昇し、空気中の水蒸気が冷やされて雲粒になっていきます。目の前で実況を聴いてなるほど!と納得できました。まるで空気の流れが見えるように感じられた参加者もいらしたのではないでしょうか。

午後にはこうした積雲が次第に富士山の北面に広がる様子が観測され、駿河湾からの湿った空気が西面にも広がってきました。こうした雲の広がりの理由としては、時間の経過とともに太陽の位置が南から南西側に移ったことから、富士山の西側斜面が日射によって温められ、上昇気流を生んでいるためと推測されるとのことでした。ダイナミックな地形と風の動き、雲の発生のメカニズムを通じて、改めて地上の気象に与える太陽の役割の大きさを再確認できた一シーンでした。気象を学ぶ醍醐味はこうした体験の積み重ねにあるのかもしれません。

 3時間ほどの登りの途中では、頭上で発生している現象をとらえて随時解説をしていただきました。飛行機雲は乾燥した空気の中では比較的短時間で消えるが、湿った空気の中では長い時間残ることをはじめ、上空の湿った空気と強風が巻雲を形成する様子など、臨場感あふれるレクチャーを受けて、時間の過ぎるのも忘れて、上空を観察しながら歩き、昼過ぎに山頂に到着しました。微風の山頂は温かく、地形も広く平坦で、ゆったりとお弁当を食べて皆さん元気いっぱいです。

南面に見える富士山の展望が良い竜ヶ岳ですが、山頂から少し奥へ行くと、とっておきの北から西の眺望が得られます。この日は奥秩父から八ヶ岳、白根三山をはじめとする南アルプスなど、大展望が味わえました。ところが、快晴の日には八ヶ岳と南アルプスの間に見えるはずの北アルプス方面が、雲にさえぎられて見えません。これは、この日は高気圧に覆われていた関東甲信越ですが、日本海側では北寄りの風の影響を受けていて、湿った空気が千曲川、犀川の谷に沿って流れ込み、安曇野盆地上空などに雲が広がって、私たちのいる竜ヶ岳からの視界を遮っていたものと分かりました。

新宿から竜ヶ岳の往復にはバスを利用しましたが、行きの車中では観天望気に必要な猪熊講師お手製の観天望気初級編のビデオ上映が行われ、あらかじめ短時間で基礎知識を復習できたことから、当日の講習をよりよく理解することができました。

また、富士山に近づいてから車窓から見える笠雲の形状や変化の様子によって上空の気流の強弱を観測できることや、高気圧が上空から笠雲を押さえつける圧力も知ることができることなど、富士山ならではの気象現象も数多く学ぶことができました。

このように、机上講座などで学んだ知識を、実地の観天望気を通じてさらに深く学ぶことは、最も効果的な講習方法であると思いました。今後もご参加された皆様をはじめ、講師、関係者との連携を高めつつ観天望気の技術向上を図り、安全登山に役立つ気象講習の拡充を図ってまいりたいと存じます。 気象委員会専門委員 島田義信