2003年度第2号

都岳連山岳遭難共済制度について

共済管理委員会

 都岳連共済がスタートして半年が経過しました。 年初めに理事会、常務理事会での説明、加盟団体担当者への説明会の開催と慌しく制度を立ち上げたため、誤解や不安が少なくなかったようです。 ここで改めて制度についての説明と現在の状況をお知らせしたいと思います。

まず現況ですが、9月現在、共済加盟者は約 3,600名、入金済掛金は約2,100万円となりました。 昨年は加入者数、4,200名程でしたので、この数字は委員会が今年度予測した数より、正直、多い数となっています。なぜかと言いますと、
①実質的な制度の説明、勧誘が保険の切り替えの4月を目前にした3月であったこと、
②新共済制度が民問保険会社に依存することなく、完全な独自共済であることの不安が予想されたこと、

などです。

これらは加入者として当然抱くべきもので、初年度の1年間を通じて、制度の目的・特色 を知ってもらい2年目で加入者数を従前に戻したいと考えていたからです。

加入者数が当初見込より多かった理由として、
①加盟団体代表者、保険担当者に今までの山岳保険と呼ばれるものの問題点が認識されてきたこ と、
②保険切り替えの時間的制約の関係で、継続を断念した団体に替わって友の会の新規加入者が増えたこと、

などがあります。

これは本来加入者個人が要求する共済内容として評価されたものと思われます。勿論、この数字をよしとする物ではありませんので、制度の充実のために更に多くの登山者に加入してもらう必要があります。

次に4月~9月までの加入者による給付対象事故は5件、内、2件3人死亡に対して、それぞれ100パーセント給付の、計67万1780円が支払われています。残りの3件は領収書を含めた給付申請書類が未だ提出されておらず、
事故報告のみ届出の段階です。給付額も報告の通り、申請の100 パーセント給付にも拘わらず委員会が当初予測したものより、かなり低い額になっています。

こ れは、
①事故初動での行政ヘリコプターによる速やかな救助が実践されていること、
②制度破綻のリス クを回避するため、死亡保険金はオプションとして遭難捜索費用の支払いを骨子にしているため、 死亡に対しては見舞金の支払いにとどまったこと、

が挙げられます。

この結果、半年を経た現在の見通しでは、決算時余剰金が予想されます。原資に配分する危険準 備金、管理費等、諸経費を差し引いた額が加入者に還元される予定です。
ここで山岳保険の必要性について改めて考えてみましょう。 具体的な事例ですが、穂高岳で遭難した場合、 涸沢の常駐隊とのやり取りの中にはヘリコプターの要請に関して「誰が費用負担をするのか」「要請者は誰なのか」を明らかにする必要があります。 又、八ヶ岳の例では、事故を目撃して小屋に通報 した人がヘリコプター要請に関して「当事者の確認」を求められたことがあります。1時問100万 円と言われる救助費用ですので「費用負担の確認」をすることは不可避なのです。これは他の地域でも同様です。こう言った場合、事故者が山岳保険に加入していることが分かっていれば、速やかに救助活動に入ることができます。保険加入は 緊急時の時間を買うことにもなるのです。

ただし、登山者が認識を新たにしなければいけないことがあります。山岳保険に加入しているからといって保険金が出るとは限らないのです(一般の山岳保険)。分かりやすく言えば一般の山岳保は基本的に障害保険ですので、近年増加傾向を示している心臓や内臓の疾患をはじめ、高山病、凍傷、熱中症、低体温症は支払い対象外となります。 全遭難者数の1割近くが疾病に起因する遭難者が占めている現状を考えると、後々トラブルにならない選択が必要でしょう。

さて、都岳連共済の特徴ですが、
①独自共済ですので、民間保険会社では支払いが出来ない病気・天災・ハイキング・クライミング・低山・高山・季節を問わず、全ての山岳遭難事故に対して共済金が支払われます。
②決算は加入者に公表し、ガラス張りの運営として余剰金が発生した場合には、当然加入者に還元されます。
③共済制度の維持運営は共済管理委員会ですので、加入者に対しての説明責任を含めて登山者の立場で速やかに給付申請をします。
④山岳地域での死亡に対して死因を問わず、死亡見舞金を支払います。(海外特約付きは海外も同様)
⑤捜索に多額な費用が必要になった場合、限度額の範囲で当座の費用を仮払い請求できます。
⑥都岳連が開催する共済加入者対象の遭難防止講習会に無料で参加できます。(通常、受講料は約8,000円程度。今年度は平成16年度1月25日(日)に「登山で必要な救急処置」を開催予定)
⑦簡易で安価な海外特約を追加することにより、海外山岳遭難事故も国内事故同様の取り扱いをします。
⑧遭難事故の際、都岳連救助隊に出動要請や現地対応の助言を求めることが出来ます。
⑨誰でも加入できます。

家族や友人との登山が年に複数回ある方には、勧めてみてはいかがでしょうか。

その他のメリットや制度のあらましについては、共済パンフレットを今一度ご覧になってください。

最後に共済委員会に寄せられた質問・疑問にお答え
します。

Q1:どうして今年、制度が変わったのか?
A1:今までは保険会社を通した保険制度でしたので、一般の登山者が遭難したと感じる状況と 保険会社が対象としている遭難が大きくずれていました。実際に支払われないケースのトラブルも何度かあり、都岳連という登山者団体が扱う保険として、大きな問題となっていたのです。
その上、今年に入ってから保険会社から次年度の保険に対して、更に不利な条件がつけられましたので、これ以上保険会社に依存した制度を継続する事は加入者に対しての責任を果たせないと判断し、制度の変更にのぞみました。

Q2:どうして独自共済の案内が遅れたのでしょ うか。
A2:前述の理由でハッキリとした制度変更の意志確認が関係者の間で固まったのが、今年2月に入ってからでした。独自共済そのものの研究は10年前から続けられていましたが、改めてあらゆる角度からリスクの見当、制度の骨子、約款、規約の整備、法的検討、理事会の承認と制 度発足に向けての具体的な動きを、2月から3月にかけての実質一ヶ月半で終えました。その間の関係者の労力は膨大な物でした。その結果、 短期問に集中して立ち上げたため、まわりの雑音に惑わされること無く、共済制度の理想に近 い形ができたとも言えます。共済パンフレット の発送は目一杯頑張っての結果だったのです。

Q3:どうして死亡保険がないのでしょうか。
A3:制度が万が一破綻してしまっては、加入者 に対して責任を果たすことができませんので、 あらゆる角度から厳格にリスク計算をした結果、 最大限の安全を考慮し、共済は登山者が最も必要とする遭難捜索費用に的を絞りました。
もう一つの理由は大多数の人はすでに何らかの生命保険に加入しており、死亡保険金はそち らでという考え方が通常です。その結果、決算時の余剰金は、それを加入者により多く還元するという分かり易い図式になりました。

Q4:遭難事故の際は、都岳連救助隊に出動要請できるのでしょうか。
A4:事故現場からの一報と初動救助は現地の警察、消防、遭対協が行なうのが普通ですが、必要に応じて都岳連救助隊が要請を受け、出動します。但し、職業チームではありませんので電 話一本ですぐに出動、とはいきません。関係者 と状況をよく検討してからの出動となります。

Q5:中高年グループで主にハイキング主体なので、共済だと掛け金が高くなるのですが。
A5:日本では毎日100人が突然死していると言われます。前述したように、山岳遭難の1割は病気(疾病)によるものです。又、遭難の75% は40歳以上の登山者です。年を重ねるほど、血管のトラブルや防衛体力が落ちるのです。中高年ほど疾病でも給付される保険を選ぶべきでは ないでしょうか。それにハイキングの定義も曖昧です。どこまでがハイキングで、どこからが登山なのか。季節や使用する用具でも判断が暖昧なのが現状です。ハイキングが主だと言われる方も2,000メートルや3,000メートルの山に登 られることはないでしょうか。春や秋に雪に見まわれたことはありませんか。登山者の判断と保険会社の判断は異なる、ということを考えてみてください。

Q6:遭難多発による準備金不足というような不測の事態には支払われた給付金の一部を返還するということですが、本当でしょうか。
A6:制度を発足するにあたり、いくつもの破綻 防止策をとり入れました。その一つが万が一の場合には、加入者全員が互助するという考え方 です。しかし、返還を求めるということは加入者にとって大きな不安です。実際には準備金も充分ですし、今後の見通しも楽観できます。単年度に破綻ということはまずあり得ませんので、 来年は削除する予定です。 共済管理委員会はこれからもより良い制度を目指して健全な運営と発展のために努力していきたいと考えています。質問や疑問、問い合わせを委 員会にお寄せください。加入者の皆さんには早期給付を実現するために、領収書を添付した適切な給付申請書の提出をお願い致します。

文責:波木正司